共和国の歴史

宇宙空間観測所周辺

世界一愛される発射基地「内之浦」〜後編:共存共栄のココロ〜

2016.06.01 up

「共存共栄」のココロ

打ち上げのときは休漁するのが当たり前

通常、ロケットの発射場を作るには、何よりも地元の協力が必要になる。第一に抑えるべきは、漁協の賛同を得ること。ロケットは海に向かって打ち上げられることから、その時間帯には安全性の問題もあり、漁に出ることができないからだ。反対運動が起こってもおかしくない状況だが、内之浦の漁協ははじめから協力的だったという。

内之浦は漁業が盛んな町で、一年を通してアジ、サバ、カマス、カンパチ、伊勢海老、黒マグロ、カツオなど、豊富な魚介類をとることができる。内之浦産というだけで値段が違うというほど、良好な漁場があるのだ。それでも「ロケット打ち上げ前後の3時間くらいは漁に出ないなど、全面協力しています」と、内之浦漁業協同組合の組合長の柳川良則さん。「共存共栄」の気持ちで協力しているという。

「協力してよかった。漁協もみんなもそう思っています」という、柳川さん。言葉の端々から感謝の気持ちがにじみ出ていた。

イプシロン打ち上げの際には、休漁するだけではなく、漁港の駐車場も打ち上げ見学場として開放。

「内之浦に生まれて良かった。先生方は我々に夢と希望を与えてくださった。内之浦が世界に通じる場所、町になった。それに町を上げて協力しているんだという誇りを持ちました。その互いの信頼関係により、打ち上げを妨げないようにしています」と柳川さん。

地区と漁協が協力し、ボランティアで海岸の清掃活動を行っている。頼まれなくても自ら協力する。そうした心が、ロケット打ち上げ時の協力にもつながっているのだろう。

たくさんの新鮮な魚がとれる内之浦。とくに浜の近くでとれる黄金アジは、ほかの黒いアジとは違い、貴重で値段が違うという。内之浦のアジは、築地までいくブランドものだとか。

町の人自ら「イプシロン打ち上げ」を陳情

漁協のみなさんも、打ち上げが成功した際には、お祝いに刺身を持参し、職員や研究者と一緒に飲んだり食べたり家族同然の付き合いだという。2013年に打ち上げられたイプシロンまでの数年間は、内之浦から大きなロケットが打ち上げられる回数が目に見えて減っていた。そのため、柳川さんは「ぜひ内之浦で打ち上げを」と、JAXAに陳情に行ったほど。そこで町の人がどう思っているかの調査が入ったが、誰もがロケットの打ち上げを誇りに思っていて、非難どころか「協力する」という声ばかりだったことから、内之浦からの打ち上げに決定したそうだ。

衛星打上げ時には、毎回、婦人会から千羽鶴が贈られる。

これほどまでに地元住民に愛され、全面的な協力を得ている観測所。町の人との交流を大切にする関係者、そしてロケットの打ち上げに惜しみない協力をする住民の相思相愛の関係が、これからも続いていくことを願ってやまない。

取材メモ

今回の取材時、橋本さん宅でのインタビューが終わるころを見計らい、お刺身や仕出しを手配してくださっていて、ごちそうになりました。思いがけないおもてなしに感動していると、同席してくださっていた元宇宙科学研究所の中部さんが「これが’内之浦’ですよ」と。あぁ、まさにこのおもてなしの心が、観測所のスタッフたちを支えてきたのだなあということを実感した瞬間でした。

取材・文/松田享子 写真/日高裕之、牧工(写真家/元南日本新聞通信員)

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